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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1246号 判決 1978年7月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金二、九九九万六、八四五円及びこれに対する昭和四八年七月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決二枚目裏九行目の「民事法定利率」を「民法所定」と、同六枚目裏一一行目の「振出」を「提出」と、同七枚目表五行目の「始めて」を「初めて」と、同一〇枚目裏三行目の「取締役会義事録」を「取締役会議事録」と、同一一枚目表八行目の「一〇八〇円」を「一〇八〇万円」と各訂正する。)であるから、これを引用する。

(主張)

一  控訴代理人

(一)  控訴会社には共同代表の定めが存するから、被控訴人に対する支払いの委託をするには、共同代表取締役である夏栗喜重及び補助参加人荒井惟俊の両者が共同して委託することを必要とするところ、右代表取締役両名が被控訴人に本件支払いの委託をした事実は存しない。

(二)  また、控訴会社は、被控訴人に対し、控訴会社の代表取締役荒井惟俊が単独で振出した小切手の支払いを委託したこともなければ、控訴会社の取締役会において、右の委託を承認した事実もない。

(三)  なお、補助参加人の主張事実を争う。

二  被控訴代理人

手形、小切手の支払委託契約の締結は、会社の業務執行行為であつて、代表取締役の権限に委ねられたものであるから、取締役会の決議がなければ右権限を行使できないものではないのである。したがつて、控訴会社の共同代表取締役であつた補助参加人荒井惟俊及び夏栗喜重によつてなされた本件支払委託契約は、取締役会における決議の存否、その有効、無効を論ずるまでもなく有効である。

三  補助参加代理人

本件の預金三、〇〇〇万円は、補助参加人がその信用、物的担保の負担などその責任において被控訴人から融資を受けたものであつたため、当時からその経理一切は補助参加人の単独業務として執行、運営されてきており、この事実は控訴会社の役員全員の確知するところであつたし、また控訴会社は、本件預金の支払いを終つた昭和四一年二月一七日から今日に至るまで七年余の間右支払いの無効を主張しなかつたのであるが、このような事実に徴しても、右支払いが共同代表の定めに違反して無効であるとする控訴人の主張は、信義則に反して許さるべきものではない。

(証拠関係)(省略)

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は左に付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、右説示を引用する。当審における控訴会社代表者夏栗喜重の尋問の結果をもつてしても、右引用にかかる原審の認定、判断を左右することはできない。

一  原判決一三枚目表九行目の「抗弁」の次に、「(第一次的抗弁2)」を加え、同裏一〇行目から一一行目にかけて「および原告代表者夏栗喜重本人尋問の結果」とあるのを「ならびに原審(第一、二回)及び当審における控訴会社代表者夏栗喜重の尋問の結果」と、同一五枚目表六行目の「別荘の開発」を「別荘団地の開発」と、同表七行目の「一一月一五日」を「一一月一九日」と、同裏五行目から六行目にかけての「一一月一七日」を「一一月一九日」と、同裏七行目から八行目にかけての「荒井両名」を「同人ら」と各訂正する。

二  同一六枚目表三行目の「勘定契約」を「勘定取引約定」に改め、同裏七行目の「そこで」の次に「控訴会社は昭和四〇年一一月二九日被控訴人と当座勘定取引を約したが、」を加え、同一七枚目表一一行目の「取締役荒井惟俊」を「代表取締役荒井惟俊」と、同裏五行目の「一〇五万円」を「一〇五万〇、〇五〇円」と各訂正し、同一八枚目表八行目の「一二月一〇日」を「一二月一三日」と、同裏九行目の「縮少」を「縮小」と各訂正する。

三  同一九枚目裏一〇行目以下同二〇枚目表七行目までを、次のように改める。

以上の認定事実によれば、控訴会社には代表取締役として夏栗喜重及び補助参加人である荒井惟俊の二名が就任しており、共同代表の定めがあつたのであるが、被控訴人と前示当座勘定取引を約した際、控訴会社が右当座預金を払い出すための小切手は代表取締役荒井惟俊振出しの単独名義の小切手とし、被控訴人はこれが支払いを約したので、右夏栗喜重は自ら議長として右荒井らとともに、「被控訴人との間において行う当座勘定取引については、共同代表取締役の一人荒井惟俊に行わせる。」旨の控訴会社の取締役会議事録を作成してこれを被控訴人に交付したというのであるから、その際右夏栗喜重は、他の共同代表取締役荒井惟俊と右当座預金を払い出すための小切手振出しについての意見が一致したので、その権限を右荒井に委任し、これが委任を受けた荒井惟俊がその委任に基づき本件各小切手を振出したものと認めるのが相当である。そうすると、右小切手の支払いは控訴人のために効力を生じたものというべきであるから、被控訴人のこの点に関する抗弁は理由がある。

四  もつとも、控訴人は、控訴会社の共同代表取締役の一人である夏栗喜重が他の共同代表取締役荒井惟俊に対してした右委任は、共同代表を定める商法第二六一条の規定に反して無効である旨主張する。

しかしながら、前説示のとおり、控訴会社の共同代表取締役の一人である夏栗喜重が他の共同代表取締役荒井惟俊と意見の一致をみた結果、被控訴人を支払人とする小切手の振出しについて、その権限を右荒井に委任し、右委任を受けた荒井惟俊がこれに基づき控訴会社を代表して本件各小切手を振出すこととしたのであるから、右夏栗は荒井を通じて自らの意思に基づく会社代表行為をすることとしたものというべきであるし、前記認定の事実関係の下においては、これによつて特に控訴会社の利益が害されることはあり得ないところであるから、荒井惟俊に対する右委任が共同代表の定めに反する無効なものと認めることはできない。

それゆえ、控訴人の右主張も、また採用することができない。

五  原判決二〇枚目表八行目の冒頭に「五」を加え、同裏五行目の「五」を「六」と訂正し、同九行目の「第一次的抗弁」を「第一次的抗弁2」と訂正する。

よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

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